落花狼藉 6





5人で宿に帰ったのは、明け方近くになっていた。

三蔵は ジープ内でもずっとを抱えたままで、宿に着くと 自分たちの房室のベッドに

を優しく横たえると、今後の処置について 悟浄と八戒と相談した。

まず 街の町長に 話を付けて、工場を町で経営すること

従業員はそのまま雇ってやること。

あの薬品は 川に流すのは 危険だから、どこかに穴を掘って、埋めること。

が ある程度回復するまでは、ここに留まるので その全てを 見届けること。

それは本来の仕事なのだが、自分たちが行うことに異議を唱えるものはいなかった。

八戒が 朝食を作って それを食べると、それぞれに 行動を開始した。










三蔵が 町長宅に出向き、八戒と悟浄が もう一度工場へ出掛けた。

悟空は の側に 付いていることになった。

ただ 眠っているだけなので、心配いらないのだが もし 目が覚めたときに

誰もいないのでは、心細いだろうと 悟空に 看病させた 三蔵だった。

悟空は 黙って の顔を見て 過ごしていた。

無事に連れ戻せたから 良かったものの、最悪の場合 殺されていたのかもしれないと思うと、

胸が苦しくなるほど 痛い。いくら 仙でも不死身ではない。

もし 三蔵が 許してくれれば、今までどおりに について行き 護衛をさせてもらおう。

を 2度と危険な目に合わせないように、自分が守ろうと 悟空は 自分に誓っていた。












お昼頃になって 工場の事を 後始末した 2人が 帰ってきた。

「悟空、の様子はどうですか?」八戒には 珍しく ただいまも言わない内に、

の事を 心配して尋ねた。

「あ、八戒 お帰り〜。は まだ眠っているよ。」悟空は そう答えた。

の寝顔を見て 「ん〜、いい女は 眠っていても美人だね〜、

この王子様のキスで 目覚めさせてもいいんだけどな〜、

俺のほうが 魔法にかかりそうな気もするよな。」

悟浄には 不似合いなほどの 消極的な発言に、八戒も 苦笑した。

「すでに 2人が魅入られているんですから、僕たち2人は 踏み止まらないと やばいですよ。

三蔵を 見てればどうなるか わかるでしょ?

僕 この4人で 殺し合いするのは遠慮したいですから・・・。」

もっともな意見だと、悟浄は にやりと笑って 頷いた。












お昼を 少しまわって、三蔵が 戻り、昼食を取ると 4人に眠気が 襲ってきた。

徹夜した上に 事後処理までしたのだから、無理もない。

昨夜の疲れも取ろうという事で、それぞれが 休息をとる。

三蔵は 空いている方のベッドには 入らずに、

の眠っているベッドの隣に 滑り込むと、優しく抱きしめて 目を閉じた。

を胸に抱きながら そのぬくもりに を無事に 連れ戻せた喜びが、ようやく訪れている。

安らかな寝息のリズムに、三蔵は 深い眠りへと いざなわれていくのだった。










 




太陽が 西に傾き 日の光が黄みがかってきた頃、

ようやく は 全身にけだるさを 覚えながら、目が覚めた。

自分の横に人の気配を感じて そちらを見ると、三蔵が 隣で眠っているのが目に入った。

ここにこうして 三蔵と共にいるということは、助け出されたに他ならない。

自分の意識のないうちに、全ては 片付いてしまったのだろうか?

あの 妖怪はどうなったのか、工場は、薬は、には 尋ねたい事ばかりに思えた。

「三蔵、・・・・・三蔵。」呼べば 必ず答えてくれるだろうと、なぜだか 確信している 自分に、

は 微笑みながら 呼びかけた。













「ん、・・・・・・、起きたのか? 苦しくはないか?」覚醒しきっていないにもかかわらず、

の身を案じて 心配そうに 尋ねる三蔵。

その紫水晶の瞳は 優しい色に覆われている。

の微笑みにつられたのか、何時になく 眉間に皺のない顔で自分を見る三蔵に、

は 自分の存在場所は、この人の懐の中だという想いを 強く持った。 

しかし まず聞かなければならない事を 尋ねる。「三蔵、事件の方は どうなったの?」

その問いに 「全部片付いた。妖怪も倒した、工場も薬も処理済だ。

おまえは 自分の事だけ大事にしてればいいんだ。心配かけてんじゃねぇ。」

答える三蔵は、幾分不機嫌さを取り戻している。

「ごめんなさい、みんなにも 迷惑かけちゃったのね。

私のせいで、余分な仕事をさせた上に 足止めまでさせて、攫われて人質にとられて、

後始末までさせたんだ。・・・・・・その上 助けてもらって この状態。」

自分で言っていて、落ち込む 













「三蔵、最初の約束どおり ここに置いていってもいいわ。

身体が少し回復したら 一度 天界に戻って 休養してから 任務に当たるから・・・。

この事件の前にも それについては 言ったけど、

私は 同行者であって 任を同じくするものではないのよ。迷惑は かけたくないの。

それに・・・・・・うっ・・・」は 三蔵の硝煙のにおいがする左の手のひらに 口を塞がれた。

見ると 三蔵の瞳には 明らかに 怒りが浮かんでいる。

「うるせぇ。・・・・、おまえ なんか勘違いしてないか?

おまえは 俺のもんなんだぞ、自分のものをとられて 俺が黙っている男とでも思うか?

取り返すのは当たり前だろうが、それにおまえをこの旅に連れて行けといったのは、クソババアだ。

勝手に 旅を降りることは 許さねぇ。いいな。」鋭い視線でそう言い切る三蔵に

口を塞がれたまま頷いて返事をしただった。

切り口は鋭いが 三蔵の想いが伝わる言葉に は、胸が熱くなった。







三蔵は 塞いでいた手を外すと、シーツで包んだだけになっているの身体に

手をまわして、自分に強く抱き寄せた。

が 無事で 良かった。 俺の側にいろ、離れんじゃねぇ。」

の 耳元で 低く 優しく ささやくように 紡ぐ言葉。

「ええ、ここにいるわ。 三蔵の側にいる。 そのために 全力で 抵抗する。

でも・・・・・・今回のように もし 離れることになったら、・・・・取り返しに来てくれる?

・・・迎えに来てくれる?」そう問う の目には 涙で いっぱいになっている。

三蔵は 腕の力を緩め を見て その涙を 唇を寄せて吸い取ると、

「ああ、取り返しに行ってやる。

は 生きて帰る事だけを 考えて 待ってろ。

傷つけられても暴力を振るわれても例え犯されても死を選ぼうとするな。

絶対に あきらめるな。

そんなことは たいしたことじゃねぇ、いいな 必ず行ってやる。

だから 俺を信じて 待ってろ。」と その耳元で 答えた。







「ありがとう、三蔵。」そう言った の目からは 涙が あふれてきた。

三蔵は そんなを 力強く抱きしめた。

自分から 離さないという想いを 伝えるために・・・・・。

は シーツから 腕を出すと、三蔵の首に回して 自分からも抱き付いた。

その行動に 三蔵は 驚く、がこんなに三蔵に答えてくれたのは、初めてだったから・・・。

そのが 自分の胸の中で 話し始める。







「三蔵、貴方の前世である 金蝉は、私の恋人でした。

その魂を持つ貴方の側に 居たくて、こうして 同行を始めた私です。

そして 一緒に居るうちに 金蝉と三蔵は 別人だと、認識できるように なりました。

でも 私を 想って待ってくれている貴方の想いには 

なかなか答えることが出来ませんでした。

ごめんなさい。

貴方が 時間をくれたおかげで 私は 三蔵を好きになり、愛し始めています。

でも 私の中の金蝉への想いは、なくなりませんでした。今でも 金蝉を愛しています。

三蔵への想いと同じくらいに いまでも 金蝉を愛しているんです。

三蔵は 私を想い、今現在 守って抱いて くれているのに、

貴方だけを想うことは 私には 出来ないんです。

どんなに 三蔵には 悪いとは思っても 金蝉を私から 亡くす事は出来ないでしょう。



三蔵 、・・・金蝉を 忘れられない私では 三蔵を愛しては いけないでしょうか?

愛しい男を2人も 抱えるような女は 許せませんか?・・・・・三蔵。」 












三蔵は を 抱いたままの姿勢で・・・、

「金蝉って野郎は、もう 死んでいる。しかも 500年という昔だろう?」と確認をした。

「ええ、そうです。」は答える。

「なら こうして おまえの側に居て抱いてやれるのは、この俺だけということになる。

が 野郎を忘れられないというのは 癪だが、それを 拒んで否定すれば 俺も

拒まれ否定されるということになる、・・・・・・・・・・そうだろ。

が それで いいのなら、俺に選択権はねえじゃねぇか。

俺の女にしたいなら、そう言うを受け入れて 抱くしか ないということだろ?

・・・・・・じゃあ そのままのを 俺にくれ。・・・・・俺の女に なれ。




の心を いつか 俺で一杯にしてやるから、

俺が 側で暖めてやるから、・・・・・俺の全部を にやるから、

が 野郎のためという 心半分以外の全てを 俺にくれ。」

三蔵は の骨がきしむほど 強く抱きしめた。








「三蔵、・・・・・・・・・ありがとう。」








、・・・・愛している。」







「私もです。三蔵を、・・・・・・・・・・・愛しています。

生きている 全ての者の中で 誰よりも 貴方を 愛しています。」








「それで 充分だ。」






ようやく 恋人になった2人を 月光だけが 優しく照らしていた。






しかし の様態が 思わしくなかったために、

三蔵の我慢は その後数日強いられた。









--------------------------------------------------------------

過去に愛した人がいても、たとえ その人をまだ忘れていないとしても
そんな自分を 受け入れて欲しい。
恋愛遍歴を重ねるとそういうところが必ず問題になると思います。
過去をも認めてくれなければ、今の自分を愛することはできないのですから・・。

感想などいただけると、幸いです。